法改正

民法改正(相続編)

先の債権編の改正に続き、相続編に大きな改正があります。

まずは、成年年齢、婚姻適齢等の改正が、平成34(2022)年4月1日から施行されます。これに従い、離婚後の養育費の期限に注意が必要です。すなわち、「20歳になる3月まで」を、「18歳になる3月まで」とするか、大学の卒業までとする「大学卒業の22歳の3月まで」などとする必要が出てくると予測されます。

また、特別養子制度の改正が、今国会に法律案として提出されるかもしれません。

 これは、養子となることができる年齢を現行の原則6歳未満から原則15歳未満に引き上げるという改正です。

このほか、遺産分割に期限を設ける、相続登記を義務化する、民法772条の嫡出の推定規定の変更、生殖補助医療等の規定を設ける等、さまざまな議論がなされています。

 事の発端は、「婚外子相続分違憲決定」

(最大決平成25年9月4日)による民法900条の改正です。

ここから、相続法制の見直しが議論されるようになりました。

 法務大臣が法制審議会民法(相続関係)部会に諮問した内容は以下のとおりです。

「相続法制については、昭和55年に配偶者の法定相続分の引上げ及び寄与分制度の導入等の改正がされて以来、大きな見直しはされていないが、その間にも高齢化社会が更に進展して、相続開始時点での相続人(特に配偶者)の年齢が従前より相対的に高齢化していることに伴い、配偶者の生活保障の必要性が相対的に高まり、子の生活保障の必要性は相対的に低下しているとの指摘がされている。また、要介護高齢者や高齢者の再婚が増加するなど、相続を取り巻く社会情勢に変化がみられる。

 これらの社会情勢の変化等に応じ、配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から、相続法制を見直すべき時期に来ているものと考えられるが、どのように考えるか。」

これに対し、次の項目が検討対象となりました。

1 配偶者の居住権の保護

2 配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現

3 寄与分制度の見直し

4 遺留分制度の見直し

5 相続人以外の者の貢献の考慮

6 預貯金等の可分債権の取扱い

7 遺言

8 その他

以下、各項目につき、改正された民法を見て行ます。

注意すべきは、これらの法律の施行日です。原則的な施行日は、平成31(2019)年7月1日ですが、附則第1条ただし書きにより、各条文で施行日が異なります。

1 配偶者の居住権の保護

・配偶者居住権【新設】(第1028条)

第1項 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。

 ① 遺産の分割によって配偶者居住権を   取得するものとされたとき

 ② 配偶者居住権が遺贈の目的とされた   とき

その他、1029条には「遺産分割の審判による配偶者居住権の取得」、1030条には「配偶者居住権の存続期間」、1031条には「配偶者居住権の登記等」の規定が新設され、現行の制度では、配偶者が居住建物を取得する場合は、他の財産を受け取れなくなってしまうことがありましたが、改正により、配偶者は、自宅での居住を継続しながらその他の財産も取得できるようになります。

事例 相続人が妻及び子、遺産が自宅(2000万円)及び預貯金(3000万円)だった場合

現行制度の不具合 

妻と子の相続分=1:1(妻2500万円、子2500万円)となり、

妻が取得する財産は、自宅(2000万円)と預貯金500万円、

子の取得する財産は、預貯金2500万円。

妻は、住む場所はあるが、生活費が不足しそうで不安。

改正によるメリット

妻と子の相続分=1:1(妻2500万円、子2500万円)は同じ

妻が取得する財産は、配偶者居住権(1000万円)と預貯金1500万。

子が取得する財産は、負担付き所有権(1000万円)と預貯金1500万、となり、偶者は、自宅での居住を継続しながらその他の財産も取得できる。

※配偶者居住権については、算定方法が曖昧である、不動産鑑定士による鑑定評価が必要になると考えられるため、評価額の妥当性をめぐって相続人の間で紛争になる可能性もあるなどという指摘や、

配偶者居住権の制度が実際に利用されるかは、相続税の課税方式次第であり、配偶者居住権を選択する場合、終身利用権は配偶者に、その負担分を控除した所有権は長男に、それぞれ課税されるのではないかという指摘があり、さらに、

配偶者居住権の算定方法によっては相当な節税方策になる可能性があるため、生存配偶者にはそれほど配偶者居住権のニーズが高くないにもかかわらず節税のためにこれが選択され、直ちに転居の必要性が生じた場合には、生存配偶者が不利益を被る場合もないとはいえないことに注意すべきであるという指摘や、

小規模宅地等の特例を受けるため、結局は配偶者が自宅の土地の所有権を取得することになるケースも考えられる。配偶者居住権を利用して租税回避行為が発生するおそれがあるなどの指摘がされています。

 

・配偶者短期居住権【新設】(第1037条)

第1項 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権という。)を有する。ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第891条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない。

 ① 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6箇月を経過する日のいずれか遅い日

 ② 前号に掲げる場合以外の場合 第3項の申入れの日から6箇月を経過する日

配偶者居住権と、配偶者短期居住権は、全く異なる規定です。

配偶者短期居住権は、遺留分制度が改正されますが、その改正に連動して規定されたものです。

遺留分制度が改正され、遺留分減殺請求権の内容が、物権的形成権から単純な金銭債権に変わりました。

今までは遺留分減殺請求をすると、所有権(持分権)を取得することができました。

したがって、たとえば、

「全財産を子に相続させる」旨の遺言があった場合、不動産の所有者は子になり、配偶者は居住の権利を失います。居住建物に住むことは、不法占有となります。

 しかしこの場合でも、遺留分減殺請求をすることにより、配偶者は所有権(持分権)を取得でき、所有権(持分権)に基づき、居住建物に住み続けることができました。

しかし、今回の改正により、遺留分減殺請求権が金銭の支払いを請求できるのみの権利になりましたので、配偶者は、遺留分減殺請求権を行使しても、私的自治の原則により代物弁済により救済を受けることは格別、原則として、居住建物に住み続けることができなくなります。

それでは配偶者が保護されませんので、半年は、法律上居住する権利を与える、その間に、新たな住居を探して生活して下さい、というのが配偶者短期居住権の趣旨になります。

なお、配偶者居住権、配偶者短期居住権は、平成32(2020)年4月1日以降に開始した相続について適用になります。 平成32(2020)年4月1日以前に開始した相続については、適用がありません。

2 配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現

・持戻し免除の意思表示の推定【新設】  (第903条第4項)

第4項 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定(特別受益者の相続分)を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

※相続税法21条の6(贈与税の配偶者控除)との平衡で「20年以上」となっています。

また、配偶者が自宅の取得を強く望むあまり、被相続人の認知症につけこんで手続きさせたりするといったトラブルが発生する可能性があり、贈与や遺贈の成否をめぐる紛争に発展しかねないというしてきもあります。

また、連続した婚姻期間が20年以上である必要はなく、通算した婚姻期間が20年以上あれば足りると解されています。

※新民法第903条第4項の規定は、原則的な新法施行日である平成31(2019)年7月1日前にされた遺贈又は贈与については、適用がありません。

 

4 遺留分制度の見直し【抜本的改正】

(遺留分侵害額の請求)

第1046条 1項

遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

(遺留分を算定するための財産の価額)

第1044条 1項

贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条のきていによりその価額を参入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って遺贈をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。

2項 

第904条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。

3項

相続人に対する贈与についての第1項の規定の適用については、同項中「1年」とあるのは「10年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

(中略)

5項

裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第1項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。

配偶者短期居住権のところでも触れましたが、遺留分減殺請求権の内容が、物権的形成権から単純な金銭債権に変わりました。

したがって、遺留分侵害額について不払いを続けると遅延損害金を支払う義務も生じかねず、猶予を求める具体的な方法や裁判所に猶予を求めることができる期間などについても不明確な点が残っているという指摘があります。

改正遺留分は、平成31(2019)年7月1日以降の相続について適用されます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・商業登記規則等の一部を改正する省令の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて(通達)〔平成28年6月23日民商第98号〕

・商業登記規則等の一部を改正する省令の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて(依命通知)〔平成28年6月23日民商第99号〕

商業登記規則61条が改正され、登記すべき事項につき株主全員の同意を要する場合および登記すべき事項につき株主総会又は種類株主総会の決議を要する場合には、一定の株主リストを添付しなければならなくなりました。

株主全員の同意を要する場合⇒株主全員の氏名又は名称及び住所並びに各株主が有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数を含む。)及び議決権の数を記載した株主リスト

種類株主全員の同意を要する場合⇒種類株主全員の氏名又は名称及び住所並びに各種類株主が有する株式の種類及び種類ごとの数及び議決権の数を記載した株主リスト